奥田英朗 無理(2009) ★★★

最悪」「邪魔」と同じタイプの,複数の主人公の話が交互に繰り返されて最後に交わる,転落小説です。

合併でできた先のない希望の見えない地方都市で生きる,中流~底辺でもがく人たちの話です。「最悪」「邪魔」は主人公は3人でしたが,この「無理」では主人公が5人に増えました。弱者を主張する身勝手な市民に嫌気がさしているケースワーカー,東京の大学に進学してこのどうしようもない町を脱出したい高校生,暴走族上がりで詐欺まがいの商品を売りつけるセールスマン,スーパーの保安員をしながら新興宗教にすがる孤独な48歳,もっと大きな仕事がしたいと県議会に打って出る腹積もりの市議会議員。

主人公は増えましたが,それぞれのテーマが暗い。生活保護,引きこもり,やくざやチンピラの抗争,新興宗教間の抗争,孤独な中年女性,小さな地方都市ゆえのしがらみや限界。皆それぞれレールを外れた人生を立て直そうともがくのですが,どうあがいても誰も救われません。その人に何の落ち度もないのに道をそれていってしまう人もいます。そんなとにかくどんどん暗い道を転げ落ちていく,ただただ滅入る話です。これ読んじゃうと,もう絶対田舎の地方都市なんて住みたくないってなりますね。タイトルの「無理」というのは,作者の「所詮底辺は底辺から脱出するのは無理なんだよ」というメッセージなのでしょうか。

最悪」「邪魔」と比べるとやっぱりどうしても一枚落ちます。もちろん5人の主人公それぞれの話は飽きずに最後まで引き込まれて読めるんですが,最後の交わるところも偶然みたいな事故みたいなもので,しかも交わったから全員問題解決!全員救われました!っていう訳でもない。「5人も話作ったはいいがオチはどうしよう!困った!えーい無理やり繋げちゃえ!…うーん,やっぱり無理があったかな…」という作者の思いからこの本のタイトルが決まったのかもしれません。

そんな読後感最悪な本ですが,分厚くて読み応え抜群で飽きる事はありませんので,ちょっとがっしりした本をノンストップで読みたいあなたに。


無理 上 (文春文庫)

無理 下 (文春文庫)

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