伊坂幸太郎 バイバイ、ブラックバード(2010) ★★★★

5股交際を続けていた男が表社会から姿を消す事になり,女性関係を清算していく話です。

何かをしでかしてしまった主人公・星野一彦は,「あのバス」である場所に連れて行かれてしまう事になりました。一体どんな事をしでかしてしまったのかは最後まで描かれないし,「あのバス」でどこに連れて行かれるのか,連れて行かれた先に何があるのかも描かれません。星野一彦を迎えに来た監視役で,180センチ180キロというマツコ・デラックスもビックリの巨漢女・繭美の説明は,「あのバス」で連れて行かれたら最後,もう元の世界に戻ってくる事はできないし,連れて行かれた先には想像を絶する苦痛なのか労役なのか,非常に恐ろしい何かが待っているという事だけです。連れて行かれる事に抗えない事を理解した星野一彦は,連れて行かれる前に交際中の女性たちに別れを告げたいという最後のリクエストを出し,了承されます。品性の欠片もない繭美という醜女と結婚するという理由であれば彼女たちは納得して別れてくれるだろうと星野と繭美は考えましたが,別れ話の行方やいかに…?という話です。

この話は繭美の存在感がスゴイですね。体格もさる事ながら,態度,言動もかなり異常。酷く下品で,誰彼構わず罵詈雑言を撒き散らし,「常識」「マナー」「同情」など数々の単語が黒く塗りつぶされた辞書を持ち歩く。終盤の話の展開を考えても,この繭美が真の主人公と言ってもいいほどの存在感です。主人公の星野はかなりロクでもないにもかかわらずそれを自覚していない,本当にどうしようもない人間ですが,この繭美というキャラクターが星野をバッサリ斬り捨ててくれるので,読者は溜飲が下がり,爽快感が得られます。

こう繭美のキャラクターの事を書くとコメディ全開の明るい話のように思えるかもしれませんが,ユーモラス分も大いに含まれるものの,「終末のフール」のような「もうダメだ感」や「世界の終わり感」がこの作品の雰囲気として全体に漂っており,あまり明るい話ではないですね。ただ,伊坂ワールド全開って感じの話で読みやすいので,比較的誰にでもオススメできる作品です。


バイバイ、ブラックバード〈新装版〉 (双葉文庫)

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