湊かなえ 告白(2008) ★★★★★

小さな娘が死んだ事故と思われたのは実は2人の生徒A,Bによる殺人だった。まだ小さな娘を殺された母親であり,生徒A,Bの担任でもある女教師の復讐を描いた作品です。この本を読んだのはもう3年くらい前なのですが,ちょうど今映画のDVDを借りてきて見たので,今さらですが書きます。映画版は基本的に原作を大きく変えずに踏襲といった感じですが,何の救いもなくバッサリ終わらせている原作に比べると,ちょっとだけマイルドになってるかなとは思いました。マイルドにしないとただでさえR15指定なのに,さらに精神的R指定がかかってしまうからでしょうか。私はマイルドにする演出は全く不要だと思いましたけどね。むしろ余計な事するなと。そんな映画に対してはあまり腹落ちしなかった私ですが,原作に対してはかなり絶賛です。

愛する娘の死が事故ではなく殺人だと知った教師でもある母親による復讐劇が,いろんな人物の「告白」から,いろんな人物の視点により描かれています。主人公である女教師の告白,犯人A・Bのクラスの委員長の告白,犯人Bの身内の告白,犯人Bの告白,犯人Aの告白,もう一度最後に主人公である女教師の告白,とそれぞれの人物の視点による告白により,事件の全体像が浮かび上がってきます。これまでクラス内で起こっていた事は,全て主人公の手によって仕組まれた,生徒A・Bを追い詰めるための計画だったのだという事が,どんどん分かっていくのが非常にゾッとする,恐ろしいストーリー構成になっています。

ここまで怖い本は最近あまり見ないですね。復讐礼賛みたいな感じで,問題視されがちだからですかね。何かって言うと,この本にも登場する聖職者・世直しやんちゃ先生が言うように,「憎しみを憎しみで返してはいけない,それでも心が晴れる事など,絶対にないはずだ。それよりも,加害者はきっと更正する事ができる。そう,信じてやってくれ。それが,被害者の再生にも繋がるはずだから…」などというきれいごとを謳いがちですからね。私がもしこんな風に家族を奪われたら,こんな聖人みたいな考え方は到底できませんね。何の落ち度もないのにある日突然大切なものを奪われて,それでも犯罪者の味方になれるほど,私は人間ができていませんからね。この主人公のようにどんな手を使ってでも犯人を追い詰めようとすると思います。人によってはこの作品を「読後感が非常に悪い」などという感想を持つようですが,むしろ私なんかはすごく溜飲が下がってすごくスッキリしたんですが,私の性格が歪んでるからなのでしょうか。

いろんな賞を取った湊かなえのデビュー作ですが,賞取ってるくせに読んでみると大した事ないなっていう本が少なくない昨今,これは全く持ってすばらしいと思える作品でした。人間の暗黒面をしっかり描き,徐々に明らかになっていく全体像からスピード感をもって一気に読む事ができる読みやすさ。そして衝撃的なラストで,カタルシスを味わえます。これは自信を持って人にオススメできる本です。デビュー作でこれなんだから,今後の作品が楽しみだ…と読んだ当時は思ったのですが,残念ながらまだこの人の本はこの作品以外は読めていません。今度何か買ってこようかしら。


告白 (双葉文庫)

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