東野圭吾 どちらかが彼女を殺した(1999) ★★★★★

東野圭吾の加賀恭一郎シリーズの第3作です。タイトルの通り,殺人事件に対して2人の容疑者が浮上。一体どちらが被害者の女性を殺害したのか?という話です。

序盤は,東京でOLとして働く和泉園子の視点で話が進み,画家を目指す佃潤一と出会った彼女は恋に落ちます。彼女は幸せな生活を送るものの,高校からの同級生で親友でもある弓場佳世子を潤一に紹介したところから歯車が狂い始めます。数ヵ月後,潤一から別れを切り出され,佳世子への心変わりが原因であると知った園子は,恋人と親友の裏切りに激しく絶望します。

中盤からは,園子のたった1人の肉親であり,兄の和泉康正の視点で話が進みます。実質,この作品は康正が主人公と言ってよいでしょう。電話での園子の様子がおかしい事に気付き,上京した康正は園子の死体を発見します。現場の状況は自殺であるかのように巧妙に偽装されていましたが,愛知県の豊橋警察署の交通課で働く警察官でもある彼は,その鋭い洞察力と肉親としての直感から,これが自殺ではない事を確信。警察や法律による裁きよりも,自身の手で犯人に裁きを下す事を決めた彼は,証拠を隠滅し,警察にも偽証をした事で,事件の担当である練馬署もこの事件を自殺と判断。その後の康正の独自の操作によって,佃潤一か弓場佳代子のどちらかが犯人である事までは突き止めたが,そのどちらが犯人なのかが分からない。そして,今回は練馬署に異動していた加賀恭一郎も,この事件が自殺でない事,康正が復讐しようとしている事を掴み,何とか復讐を止めようと彼も独自に捜査を進めます。犯人はどちらなのか?男か?女か?終盤では康正が集めた証言・証拠と,加賀が集めた証言・証拠によって,どちらが犯人なのか,2人の考えが二転三転する,非常に緊張感のある展開となっており,読む手が止められません。加賀は復讐を止められるのか?情緒的な部分が強かった前作「眠りの森」とは違う,バリバリのミステリーです。

ミステリーは必ず最後に犯人と真相が明かされるものですが,なんとこの作品は最後まで犯人の名前が明かされません。本を隅から隅まで読んで考えてね,と言わんばかりに読者にぶん投げて終わっています。これには私もビックリしました。加賀がほとんど何もかも明かして犯人の名前を言ってないだけで誰が見ても明白,というのではなく,ただ流し読みしているだけでは本当に分かりません。一応文庫版では袋とじでヒントが用意されていますが,それでもやっぱり犯人の名前は明かされないし,直接的な答えが書いてある訳でもありません。私はこんなに何度も読み返すのは久しぶりだっていうくらい何度も読み返してやっと犯人の確証を得て,答え合わせをしてかなりの達成感を得られました。このネット社会では検索すればすぐ答えは出てきてしまいますが,この本を読み終わるまで絶対に検索しない事をオススメします。

それにしても,何の落ち度もないのに2人に裏切られ殺されてしまった園子の事を考えると,犯人に多少なりとも罰を与えられたとは言え,非常に気の毒で哀れでなりません。潤一に対しても佳世子に対しても本当に許せない思いでいっぱいになりますし,読後感はあまり良いとは言えません。


どちらかが彼女を殺した (講談社文庫)

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