海堂尊 極北クレイマー(2009) ★★★

北海道の財政難にあえぐ地方都市・極北市にある極北市民病院を舞台とし,そこに派遣された医師・今中良夫を主人公とした作品です。財政の苦しい地方医療の崩壊をテーマとしています。

極北大学病院の医師だった今中は,上の推進する研究に余計な口出しをしたせいで極北市民病院に異動となります。その極北市民病院では,病院の衛生環境が酷いだけではなく,スタッフの対応も技術不足の上に怠慢で,マトモな人間がいません。そのあまりの病院経営の酷さは,極北市の中でも赤字ワースト5に数えられるほどでした。「螺鈿迷宮」等で登場し,たまたまこの病院に潜入していた氷姫・姫宮香織の助けを得て,今中は腐った病院スタッフに疎まれながらも病院改革に励みます。

そんな中で病院の中で唯一マトモな人格者で誰からも尊敬され,極北市の産科医療をたった1人で支えてきた医師・三枝久広が,手術中に妊婦が死亡した事故に関して業務上過失致死で逮捕されてしまいます。それをきっかけにガラガラと音を立てて崩壊していく極北市民病院と極北市。一介の医師に過ぎない今中はどうしていくのか?という話です。

極北といえば「ジェネラル・ルージュの凱旋」で北に飛ばされた速水や,「ジーン・ワルツ」「マドンナ・ヴェルデ」で登場した清川も登場したりして,他の作品を読んだ人はニヤリとできる部分もあります。

明らかに夕張をモチーフにしていますが,実際に作者も取材に行ったそうです。さらに,福島県立大野病院の事件もテーマにしており,作者の海堂尊が相変わらず医療の問題点について多いに怒っているのは分かるのですが,少々詰め込みすぎで消化不良気味な感があります。ちょっとボリュームがありすぎてこのページ数では消化しきれず,俺たちの戦いはこれからだ!というところで終わってしまっていて,あれ?ここで終わり?と拍子抜けしてしまうかもしれません。続編の「極北ラプソディ」もありますが,この「極北クレイマー」の話は非常に閉塞感が強く,かなりイライラさせられながら読む本なので,できればこの本はこの本で片付けて,スカッとさせる部分が欲しかったなというのが個人的な思いです。


極北クレイマー2008 (講談社文庫)

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