東野圭吾の加賀恭一郎シリーズ第9作です。前作に引き続き,加賀が日本橋署の刑事として登場します。映画版も見ましたが,なかなかよかったです。
とある男性が刺されたままかなりの距離を歩き,日本橋の麒麟像の前で力尽きて亡くなるという殺人事件が発生。なぜ彼は誰にも助けを求めず,麒麟像の前まで歩いていたのか?そして巡回中の警察官から逃げようとして車にはねられ重体となった被疑者が真犯人なのか?被疑者の婚約者や被害者の息子など,前作のようにいろんな人に聞き込み,いろんな場所に足を運び,事件に関する様々な疑問を1つ1つ解決しながら,加賀が真相に向かいます。
相変わらず彼はその鋭い洞察力と飽くなき行動力でただ事件を解決するのではなく,殺人事件で傷付いた人の心をケアしたり,被害者の残したメッセージを拾い集め,道を誤った人間に対して正しい道へと導きます。「悪意」で教師だった加賀の過去は描かれていましたが,今作では教師時代の苦い思い出から,今回の事件を生み出したとでも言うべき人物にはこのシリーズでは初めて強い怒りをぶつける場面もあります。
たくさんある伏線を次々回収していくこの作品はバリバリのミステリーではありませんが,前作「新参者」と似たほんわかとした温かい気持ちになれる人情物としてじんわり読む事ができる作品だと思います。
麒麟の翼 (講談社文庫)
東野 圭吾