東野圭吾 私が彼を殺した(2002) ★★★★

東野圭吾の加賀恭一郎シリーズの第5作です。「どちらかが彼女を殺した」からさらに複雑になり,今度は容疑者が3人に増えています。もちろん,「どちらかが彼女を殺した」と似たタイトルである事からも分かる通り,犯人の名前は最後まで明かされません。

作家・穂高誠と詩人・神林美和子の結婚式中に,新郎の穂高誠が毒殺される事件が発生。捜査の結果,穂高が常用していた鼻炎用の薬に毒物が混入されていた事が判明。美和子の兄でありながら,彼女に異常な愛情を向け,妹を奪う穂高に殺意を抱く神林貴弘,穂高に好きな女を寝取られた上にゴミのように捨て自殺させた,その後始末までさせられた穂高のマネージャー駿河直之,穂高に中絶させられ捨てられた上に,自分が手塩にかけて育てた美和子に乗り換えるという屈辱を味わわせられた編集者の雪笹香織の3人が容疑者として浮上。3人とも穂高を殺す動機を持ち,穂高に毒を盛るチャンスがありました。練馬署の加賀恭一郎が一体誰が穂高を殺したのかという謎に挑みます。

どちらかが彼女を殺した」ではほとんどが被害者の兄の視点で話が進んでいましたが,この「私が彼を殺した」では,容疑者3人の視点からの話が,3人順番に展開されます。「私が彼を殺した」というタイトル通り,3人とも自分が殺した気になっています。実際の下手人は1人だけなのですが,結局その下手人以外の2人もたまたまチャンスが巡ってこなかったからやらなかった(やれなかった)だけで,もしチャンスがあれば手を下し得たし,真犯人が失敗していたとしても他の2人のどちらかによって穂高はどの道殺害されていたという話になっています。

どちらかが彼女を殺した」では何の落ち度もないのに自分勝手な容疑者たちに殺害された被害者が非常に哀れでしたが,今回の被害者の穂高はホントにどうしようもないクズ野郎なので,自業自得って感じで全く哀れみも覚えないし,その点では読後感は悪くないですね。真犯人以外の残りの2人も場合によっては殺人ではなくても殺人未遂や他の罪で逮捕されるかもしれませんし,この事件後の関係者とのここまでこじれた人間関係を考えると,3人の中でその後の人生を一番謳歌できるのは案外穂高を殺してスッキリ人生をやり直せる真犯人なのかもしれません。そして,よりにもよってそんなクズ野郎を選んで結婚する美和子は一体何を考えているのか…一番理解不能な人物でした。

容疑者が増えて謎も複雑化しているとはいえ,クライマックスで事件の要素が何度となく180度転回しまくる怒涛の展開に読む手が止まらなかった「どちらかが彼女を殺した」ほどの衝撃はなかったですね。2度目だったので。という事で,もちろんこの作品もおもしろい事には変わりませんが,個人的には「どちらかが彼女を殺した」の方が好きですね。


私が彼を殺した (講談社文庫)

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